これまで繰り返し説明されているように、世の中のあらゆる出来事や物質は常に変化し、お互いに影響を与え合う相互関係にあります。ものごとには、必ずそれが起こった原因があります。原因に何かしらの関係が縁となって加わり、結果が生じ、報いがあるのです。一切の現象はこういった因縁の相互関係の上に成立しているので、絶対的なものや不変なものはあり得ません。このように、仏教の根本には、あらゆるものは関わり合って存在しているのだという、「縁起」という教えがあります。
もちろん自分自身も同じように「無我」であり「無常」です。そして、何一つ思い通りになるものはなく、望んだとしても完全に手に入れられるものなどありません。それにも関わらず、人間はありとあらゆるものごとへ不変を望み、そこへ執着してしまいます。
仏教では、このジレンマによって苦しみや悩みが生じると説いています。煩悩は因と縁があるから生まれるものであり、それらの原因を取り払えば、煩悩もなくなります。こう考えると、苦しみに満ちたこの世界は、全て人の心が生み出しているものといえますね。
安らかに生きるためにまず知るべきことは、「世の中には思い通りにならないことがたくさんある。自分にとって都合のいいことばかりは起こらない」という現実です。そこを出発点にして、自分や世の中を見つめて、苦しみや悩みを取り去る方法を探しましょう。
そこで大切なのは、ものごとにこだわらないこと、偏った見方をしないこと。さらに、この世の全てはお互いに関係しあい、つながっているのだということを理解すること。
世の中のあらゆるものが無常であると知っているから、一期一会の出会いを大切にし、自分をめぐる仕事や人間関係の一つひとつのことも丁寧に謙虚に愛情を込めて行うことができます。全てが縁起によって成り立つものだと知っているから、自分以外のものへ慈悲の心をもって接し、一瞬一瞬を尊く生きることができます。生かされている"いのち"で毎日を大切に生き、自分本位でなく周りへの思いやりを持って行動することは、苦しみの原因である執着をコントロールすることにもなります。
これが"今"をイキイキと生きるお釈迦さまの智慧です。お釈迦さまは、全ての人々を慈しみ、苦しみから逃れて幸せになれるようにと願い、このような教えを今に残されたのです。