耕し、植える
ある夏の日、お釈迦さまはいつものように弟子たちをつれて町に托鉢に出かけました。
田んぼのあぜを歩いている一行に田植えをしていた農夫が、作業の手を休め額の汗を拭いながら、声をかけました。
「お釈迦さん、あんたたちはいいね。なにも作らないで生活ができて。わしらはこうして田を耕し、苗を植え、大事に育て、秋になってやっと実りを得ることができるのにな」
この言葉を耳にしたお釈迦さまは、にっこりと微笑むと答えました。
「お百姓さん、私たちのやっていることもあなたがたのやっていることと同じですよ。私たちも、耕し、植え、育てて、実りを得るのです。ただし、私たちが相手にするのは田んぼではありません。人の心です。
私たちは人々の心を耕します。ある人の心は、何十日も雨の降っていない地面のようにかちかちに固まっています。また、ある人の心はごつごつとした石ころだらけです。ですから私たちは、ある時には鉄の鍬のように強い言葉を使って頑固な心を耕し、ある時には優しい言葉を用いて石ころを拾うように誤った考えを一つずつ正していきます。
心がよく耕された土のようにふかふかと柔らかくなったら、今度はその人が本来持っている悟りに至る種を植え、大事に育てます。害虫を払い雑草を抜くように、心に生じる迷いや欲望を払い、嫉妬や慢心を抜いて、まっすぐに苗が育つように助けます。
そして、最後には一人一人が悟りという豊かな実りを得ることができるのです。私たちもあなた方と同じことをしているのですよ。」
こう答えると、お釈迦さまは弟子たちとともに再び歩を進められました。眩いばかりの夏の日差しの中を。