インタビュー
更新日時:2017/03/07
シリーズ「未来のお寺を考える」⑦
落語に出てくるような、人情味あふれる
お坊さんが日常生活の中にいてほしい
~落語家 桂雀々~
今年、芸歴40年を迎える上方落語の噺家、桂雀々師匠。お坊さんの「説法」と噺家の「落語」を同じ高座で披露するというイベント「高座バトル」のプロデューサーを務めています。人々の悩みを笑い飛ばし、笑顔に変える落語家には、お坊さんの説法がどう見えるのか。お寺の未来をどう見ているのか、伺ってきました。
落語家 桂雀々
1960年、大阪生まれ。1977年、上方落語の桂 枝雀に入門。同年10月に桂 枝雀独演会にて初舞台を踏む。上方の爆笑王の異名を持ち、数々の公演は完売。2011年に拠点を東京に移し、落語はもちろんTV、ラジオ映画出演など、多岐の分野で活躍中。
■説法と落語、コラボレーションの魅力
編集部)
「高座バトル」は今年の3月で4回目を迎えますが、雀々師匠はプロデューサーとしても、演者としても1回目から関わっていただいていますね。高座バトルとの出会いを教えていただけますか?
雀々師匠)
「高座バトル」は、その昔、説法自慢のお坊さんと噺自慢の落語家が、聴衆を前にお寺の高座で競い合ったという伝承に由来しているそうで、そんなイベントができないか、とお話をいただいたのが最初でしたね。
編集部)
1回目が「恋」と「嘘」、2回目が「縁」と「艶」、3回目が「品」と「貧」、そして今回4回目が「出会い」と「別れ」ですね。実際に、高座に上がられてみていかがですか?
雀々師匠)
テーマがあって、お坊さんと同じ場所に座るというのは、今までまったくない企画で新鮮ですよ。落語は「どこそこの○兵衛さんがおって、ほっこりして面白かった」というのが落語ですよね。でも説法は、一語一句説得力があって重みがある。お坊さんも格好よく見えますね。「お坊さんたちはどんな話されるんやろ」と、毎回思います。ライブでお坊さんと落語家が順番に同じテーマについて話していくわけですが、お客さんは説法と落語を交互に聴く。これは聴く側も話す側も大変ですよ。1回目の恋と嘘のときは、説法を聴かれて泣いてる人もいてはる。次に出る噺家はそっから笑わさなあかんから、大仕事です。泣いている状態から笑いに持っていくわけですから。でも、その感情の揺れというか振れ幅がかえってよかったみたいですね。説法が心にしみて、落語で笑う。いい塩梅だと思いますよ。
編集部)
じつは、お坊さんたちは噺家さんの前で話すことに、手が震えるほど、かなり緊張をしているそうです。説法を聴かれていかがですか?
雀々師匠)
そない緊張されてるんですか。でもお坊さんも話上手やな、と思いますよ。説法の中でどっと笑いを取ったりされているので侮れません。落語というのは、話の中に面白おかしい人が出てきて、その人が大慌てで何かをして、「という、嘘でした」というオチがあるものです。嘘の話を本当のように話す。一方で、説法は「本当にそんなことあるの?」という、嘘のような話が「本当の話です」というオチがある。真逆なわけですよ。
編集部)
本当のような嘘の話である落語。嘘のような本当の話である法話。確かにそうですね。仏教は「思い通りにならないこと」をどう対処していくかという説法であり、落語は「思い通りにならないこと」を笑い飛ばすものなのではないかと。「思い通りにならないこと」が共通点としてあるのではないかと思います。
雀々師匠)
そうですね。私らの世界は「ほんまかな、ほんまかな」とお客さんの気持ちをグッと掴んで、引っ張っていって、最後にオチでどかーんと「なんや、嘘だったんか」という世界。それがお坊さんの方になると、聴く側が仏教の世界に耳を傾けて、「え、本当かな?」「どうなんだろう?」となって、「実際そういうことがあったんですよ」となる。どちらも物の道理や真理を話しているのですが、アプローチが逆。これは面白いですよね。我々はイマジネーションの世界に引っ張っていくものなんですよね。登場人物の心地いい困りごとを、おもしろおかしい世界で笑い飛ばしてしまう。聴衆が応援する気持ちになるというか。落語は本来、人々の気持ちを救うとか、明るくするという意図があるんです。
編集部)
説法も人の心に寄り添うものですが、本当のような嘘、嘘のような本当という世界観の違いがありますね。ところで、高座バトルの会場はお寺ですが、場としてのお寺はどのような印象ですか?
雀々師匠)
それはそれは趣があっていいですね。始まる前にご住職に境内や本堂をご案内いただいたりしますが、立派なお庭も素晴らしいし、本堂の荘厳な雰囲気もいい。落語をする場所として見てもサイズ感や空気感がちょうどいい。昔は、お寺が地域のコミュニケーションの場でしたから、お寺で落語を聴くというのは、今よりも日常的にあったんでしょうね。今はイベント的になりましたけどね。
編集部)
寄席でされるのとは、やはり違いますか?
雀々師匠)
御本尊の前で、ぽつんと座っている空気は、悪くない。抵抗はないですよ。だけど、御本尊の前はものすごい光ってるわけですよ、飾りが(笑)。そこで人情話でしょう。その雰囲気を消すぐらいに聴かせなきゃならんわけですよ。煌びやかな背景が消えるぐらい、話にどっぷり浸かって、笑ってもらわんと。それは寄席とは違いますね。
■お寺も落語も若手が活躍する時代へ
編集部)
高座バトルに来てくださる方は小学生から80代までとかなり幅広く、男女比だと3分の2が女性のお客さまです。リピーターの方も多いようで、興味をもっていただいている、という実感がありますが、落語の世界はいかがですか?
雀々師匠)
落語は聴いたことあるけど説法はない、あるいは説法はあるけど落語はない、という方が高座バトルにいらしてくださっているんでしょうね。そういう意味では、このイベントは、どちらも楽しんでいただける特別な場になっていると思います。落語は最近、女性のお客さまがとても増えていて、若い世代のお客さんも増えています。イケメン噺家が増えたこともありますが(笑)、渋谷で落語を楽しめる「しぶらく」という試みも若者にうけているようです。初心者でも楽しめますし、価格も映画を見るぐらいの気軽な値段なので、若い人も行きやすいんでしょうね。お寺さんも若いお坊さんたちが頑張るときだと思いますよ。
先ほど、「説法には一語一句説得力がある」、と言いましたが、やはりその説得力は積み重ねた年齢もあると思います。噺家も20代、30代は、まだ覚えたことを話すことで精いっぱい。リアリティや背景、人物像、お客さんのリアクションとか、そういうことを考えられる余裕がない。それらしく、存在感とか絵になるような形になるのは、積み重ねた経験や体験です。それはお寺さんも噺家も同じ。共通するところでしょうね。若いお坊さんも噺家もお寺と落語の新次代の担い手です。これからますます精進し、学ぶべきことを学び、新たな道を切り拓いていってほしいですね。
編集部)
確かに、法話を話すとき、実体験がないと経典の部分が「はりぼて」のようになってしまいます。経験が足りない、年齢がものを言うというのは、そういう部分でもあるんでしょうね。
雀々師匠)
噺家はモデルを見つけますね。「誰かおったなあ、こういう友達」という風に。そうやって、登場人物に魂を入れていくんです。それから語り口のリズムもありますね。たとえば、大きな銀杏の木が植わってます。お寺の表には誰もいません。ケイトウの花が真っ赤に咲いています。玄関の格子戸をガラガラと開けて、「こんちは こんちは(どんどん小さくなる)」「坊さん、坊さん、坊さん(どんどん小さくなる)」これで、お寺の背景が浮かびますよね。空間も感じる。
■落語に登場するお寺は町の人の身近な存在。そんなお寺が増えるとうれしい
編集部)
落語にはお坊さんがよく出てくるイメージがありますが、やはりお寺が舞台の演目は多いのですか?
雀々師匠)
古典落語には多いですね。それは、昔の生活の中にお坊さんが日常的にいたからだと思いますよ。話としては、何か困ったことあったら住職のとこ行く。「どうしたんや」「坊さん、こんなことありましてん」。そしてみんな集まって来て、座敷に入れて。お坊さんはたいがい人格者ですよ。「はいはいどうしたんじゃ、はいはいそうか。上がれ上がれ」と言って説法をするわけです。今のお寺を題材にしても、そういう情景ってないですわな。
編集部)
確かに、新作落語にお坊さんを登場させるのは難しいですね。それが、お寺の現状であり、問題ともいえますね。
雀々師匠)
今のお坊さんは町の人々にとって、身近な存在ではないのだと思います。「お坊さんは一体どこで何をしているの?」と思われているかもしれません。もちろん、いろいろ活動はされていると思いますよ。でもさっきの落語のように「坊さん、こんなことありましてん」とお寺に駆けこんで行く人はいないですよね。若いお坊さんたちは、落語に出てくるような“身近なお坊さん”を目指してほしい。お寺は7万7000もあるんですから、それぞれテーマをもってみたら楽しいかもしれません。噺家も、イケメンもいれば爆笑落語もいるし、世情を切るのが得意な噺家もいます。二ツ目世代が頑張っていますよ。二ツ目は約10年勤めると、真打ちです。これからの落語界を支えていくのは彼らですから。
編集部)
お寺がテーマを持つのはいいですね。例えば「うちは元気になるお寺です」とか、「大笑いできるお寺です」とか。色を決めていくのはいいかもしれませんね。
雀々師匠)
今の人は、みんな真面目過ぎるんですよ。昔は破天荒なお坊さんも多かった。重みのある説法もいいですが、大笑いできるような親しみのあるお寺もいいと思いますよ。
編集部)
そうですね。お寺のテーマ、考えてみたいと思います。では最後に、高座バトルの今後について一言お願いします。
雀々師匠)
一度も生で、説法と落語を聞いたことない人におすすめです。一度、この面白さを味わったら虜になって離れなれないので、ぜひとも足を運んでいただきたいですね。今後は、全国展開できるといいですね。全国のお寺を、高座バトルツアーバスで巡るのはどうですか。桜前線に合わせて北に移動していくとか。ぜひ、地方のお寺さん「高座バトル」を誘致してください。われわれが巡業しますよ。日本を笑いと説法で元気にしていきましょう!
第四回高座バトル
〜お坊さんと落語家の、おもろい噺、いい話。〜
日時:2017年3月26日(日)15時〜17時(14時30分開場)
会場:雑司ヶ谷・法明寺本堂 東京都豊島区南池袋3-18-18
テーマ:「出会い」と「別れ」
詳細情報:http://www.tera-buddha.net/2016/