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この人に聞きたい

インタビュー

更新日時:2016/12/16

シリーズ「未来のお寺を考える」⑥

万灯講からこども食堂まで
お寺は生きる上で必要な学びを得る修行の場
〜説江山正福寺 田中貞真上人〜

千葉県浦安市堀江にある正福寺。古くは漁師町として栄えたこの地域は、現在は海岸線が埋め立てられ、海からは少し離れた場所にあります。昔からの商店と新しく住み始めた人々に囲まれたこのお寺では、20年ほど前から地域住民とともに万灯講や、年1回約80人の子どもが集まる寺子屋活動も続けてきました。そして近年はお寺主催のイベントだけでなく、外部主催者を受け入れて、境内での映画上映会、こども食堂などの開催も始めています。今回は正福寺副住職の田中貞真上人に、その活動とお寺という場所の存在意義についてお話を伺ってきました。

説江山正福寺
田中貞真上人

 

■自分が思うほど、お寺は地域から相手にされていない

編集部)
長く万灯講を続けてこられて、ほかにも寺子屋なども展開されていますね。まずはお寺としてのこれまでの活動についてお聞かせください。

田中上人)
万灯講については、最初は檀家さんのなかの有志の人たちに集まってもらって、そこから始まりました。毎年開催を続けていることで、檀家さん以外の地域の方も集まるようになって、今では月2〜3回、万灯講の太鼓の練習などでお寺に集まってもらっています。そして街を歩かせてもらうので、地域の商店の方などにも協力をいただいています。
ほかにも15年ほど前からは毎年夏に、日帰りの寺子屋も開催しています。これは地域の子どもたちに向けて、陶芸や、本堂でのお題目を唱え、肝試しなんかも行ってきました。最初は30人ほどでしたが、今では80人くらいのお子さんが集まります。あとは、知り合いで宇都宮動物園の園長がいるので、子どもたちを集めて、その動物園への飼育体験ツアーの企画もしています。

編集部)
それだけ長く、多伎にわたり活動をされているのはすごいですね。お寺が地域に溶け込むためのコツなどあるのでしょうか?

田中上人)
そういうコツがあるのなら、私が知りたいですね(笑)。この地域に限っていえば、お寺があまり地域に溶け込んでないなと思っています。最近はもっと地域に密着しようと思って、いろいろと活動していますが、地域に出れば出るほど、お寺は地域から相手にされていないなと感じるんです。20年も万灯講を続けているので、地域とのつながりには自負がありましたが、そんなことはなく、お寺が無くてもこの街は大丈夫なんだなと思いました。

編集部)
お寺が相手にされていない、と感じる理由はどんなところでしょうか?

田中上人)
浦安にはすでに、お寺以外の地域のコミュニティーがいくつもあって、それぞれが強く結びついています。例えばこの地域はお寺よりも神社のほうが団結しています。4年に1度お祭りがあるんですが、お神輿が各町内から100基ほどでるんです。それは浅草の三社祭よりも盛り上がりますよ。だからそういうお祭りなどの地域のイベントで、すでにお寺以外の地元のコミュニティーができているんです。お寺としてはこれまで、消防団や自治会など地域のいろいろな集まりに協力をしてきませんでしたので、これからはもっと地域のコミュニティーとつながらないといけません。いろいろとこれまでお寺のイベントを行ってきましたが、私は「お寺が行うイベントはお寺が主催してやるべき」という考え方をしてきたので、すべてお寺で完結していたのが、他の地域コミュニティーとのつながりが希薄になった原因かもしれませんね。

編集部)
今は「お寺のイベントはお寺が主催するべき」という考え方からどのように変化したのでしょうか?

田中上人)
浦安は恵まれていて、学童やお祭り、自治会など地域で人が集まる場所がなんでも整っています。だからお寺が地域と同じようなことをやっても仕方がない、お寺独自のことをお寺主催でやらないといけないと考えていました。しかしそうしているうちに限界を感じてきたんです。お寺主催だと檀家などお寺に関係のある人しか来ないじゃないですか。そういう考えをしているときに東日本大震災が起きました。私の子どもや万灯講の子どもが支援活動にボランティアとして参加したほか、境内で東北の物産展をしたのですが、その辺りから普段からいろんなところに貢献しなくてはいけないな、という思いになってきたんですね。みなさん自分のできる範囲で地域や社会に貢献しようとしていて、そのみなさんのがんばっている活動を見ながら「お寺が主催でなくてもいい」という思いになりました。

■「映画上映会」「こども食堂」など外部主催者の受け入れ

編集部)
毎年開催されている映画の上映会は、お寺主催ではなく、外部の主催団体を受け入れていますね。

田中上人)
浦安ドキュメンタリーオフィスさんですね。こちらは東北の物産展のときに、地域の方とお話しているなかで「お寺でドキュメンタリー映画の上映会をしたいという方がいるから話をきいてくれないか」と声をかけられて、その出会いから始まりました。境内のなかに大きなスクリーンを貼って、客席を作って、夜空の下で上映会をしたんです。平成26年から毎年夏に開催していて、今年で3回目。今年は上映のほか、音楽演奏もありました。
ほかにもいろいろとお話がありましたが、すべて受け入れるというスタンスではなく、あくまでもこれまでの私とのつながりやお寺でやることの意義を共有できないとお断りすることもあります。

編集部)
今年4月からは、全国各地で活動が広がっている子どもの孤食などを解決する「こども食堂」の活動もお寺で実施されていますね。子どもの貧困対策として注目を集めていて、子どもへ食事と安心して過ごせる場所の提供を目的に、さまざまな場所で開催されています。これも外部からのお話があったのでしょうか?

田中上人)
正福寺では、今年4月よりスタートした「浦安フラワー通り こども食堂」に会場を提供させて頂いています。これはもともと知り合いだった地域の方で、福祉関係の仕事をされている梅澤さんという方からのご提案で始まったものです。梅澤さんは以前から市川で開催されている「こども食堂」のメンバーとしても活動していて、浦安でもこども食堂を開催したいということでお話いただきました。

編集部)
お寺でこども食堂をやる意義のようなものが共有できたのでしょうか?

田中上人)
お寺としては、梅澤さんがもともと知り合いだったということと、こども食堂によって、普段お寺に来ることがない方がいらっしゃって新しいご縁が生まれれば、という想いで受け入れました。お寺に来れば、お参りしたり、手を合わせたり、お寺のものに触れたりということでお寺となんらかつながりが持てますよね。
こども食堂によって、もちろん檀家さん関係のお子さんもいますが、それ以外のこれまでお寺に来ていた子どもとはタイプの違う子どもたちが来るようになりました。檀家になるとか信者になるとかではなくて、お寺に来ることで、お寺や他の参加者同士でご縁を結んでもらえたら、それでいいですよね。今まで想定してなかった方たちがお寺に来るようになって、新しいご縁が広がっているように思います。

編集部)
それでは具体的にどのようにこども食堂は運営されているのでしょうか?

田中上人)
基本的には、梅澤さんが集めたボランティア団体「浦安子ども食堂コミュニティ」で運営されています。お寺は彼らに協力をさせてもらっているかたちです。食事はメンバーが関わっているNPO団体の施設で作ってきていて、それをこのお寺のなかの大広間で提供しています。メニューのレパートリーは、ハヤシライス・カレーライス・豚丼などです。
こども食堂の日は、食事以外にも、ここで過ごす時間も楽しんでほしいので「食事の前に竹馬やコマなどで遊ばせてみてはどうか」とか「花火やスイカ割りをやってはどうか」などをお寺として提案させてもらうときもあります。
ボランティアスタッフは毎回変わりますが、看護師をやっている方や福祉施設の方、なかには議員さんという方もいらっしゃいました。参加費は子ども100円、大人300円ですが、寄付も受け付けていて、お金のほか、米や食料など届けてくれる方もいます。毎回お子さんだけでなく、親御さんや地域の大人など50人くらいが集まりますね。この日にお寺の信行会が重なると、檀家さんがお孫さんを連れてきたいといって、いらっしゃる方もいます。そうしたお年寄りや大人も一緒にご飯を食べるときもあるので、世代間交流になることもあります。

編集部)
これまでとはタイプの違うお子さんがこども食堂にはいらっしゃるというお話がありましたが、その違いはどういったところでしょうか?

田中上人)
ボランティアのみなさんが募集をしているので、お子さんが貧困なのかそうじゃないのか、家庭でどんな事情があるのかなど詳しい状況はわかりません。それに特に貧困などを打ち出して募集をしてしまうと、本当に貧困のある子どもたちが来ることができませんね。例えば先日はこんなことがありました。女性スタッフが女性ものの洋服をいっぱい持ってきて、来ている女の子たちに「好きな服を持っていっていいよ」とこども食堂のなかで企画をしたんです。洋服をあまり持っていない子ども達にこうしたさりげないことが大事だなあと思いました。
もちろんはっきりとわかるわけではないのですが、いらっしゃるお子さんのなかには、貧困だけでなくDVや児童虐待など家庭のさまざまな問題を抱えている子も多いのかなと思います。そうしたお子さんはこれまでお寺で関わることが少なかった方々です。

編集部)
さまざまな環境で育ってきたお子さんが集まると、対応しなければならないことが多そうですね。

田中上人)
今のお子さんは和室の使い方を知らない子も多いですね。若い方でも和室のある家で育ったことがない方もいるようです。先日も床の間に腰かけている子どもがいました。さすがにまずいかなと思いましたが、あまり説教くさくなるのも嫌なので、和室の使い方をイラストにして貼ったり配ったりしました。お寺は日本の文化が集まっている場所でもあるので、そうしたことを伝えるのには良い場所かもしれません。

■お寺は生きる上で必要なことを学ぶ(=修行する)場

編集部)
お寺がこうした地域に向けた活動をする意義を改めて教えてください。

田中上人)
人を集めてわいわいやるイベントであれば、浦安にはいっぱいあります。そのような地域で、お寺としてできることは、イベントをきっかけにして、お寺や仏教に親しんでもらうということです。お寺で主催するものも、外部の方に協力して行うイベントも、仏教に親しんでもらうためのきっかけづくりなんです。お寺を身近に感じてもらうなかで、一人でも「日蓮さんてそんな人なんですね」と知ってもらえたら良いし、「小さいときにお寺に行ったな」と大人になってから思い出してもらえたら、それでいいんです。お寺が物珍しいなとか、お寺の雰囲気っていいなとか、パワースポットだとかそういった神秘的なことを求めてくる人もいます。そうしたいろんなタイプの人たちが来られるよう、お寺ができる範囲で入口をたくさん用意しておくことは大事なことです。お寺や仏教に触れることができるきっかけをいろいろと作っておかないと広まらないと思います。

編集部)
それでは、田中上人が考える未来のお寺はどんな場所でしょうか?

田中上人)
まず現実的な役割として、地域の活動ではできない部分や足りない部分はお寺で補うことができると思います。例えば独り暮らしの高齢者の状況は、行政の福祉課でも把握はしているでしょうけども、お寺は檀家さんとの付き合いのなかでより詳細に知ることもできます。「このおばあちゃんは家族で住んでいることになっているけど、ほぼ独りで生活されています」とか、「歩けないけども自転車なら移動ができる」とか、細かいけども特別な情報を把握しているんです。そうした地域で補いきれないところはお寺として協力できる余地があります。
そして、これからもお寺でいろいろなイベントを企画していきますが、それでも最終的にお寺は修行の場であるということは外せません。お寺は人が集まって修行するところです。修行というとひたすら坐禅を組むとか滝に打たれるとかそういうことを想像しますが、日常生活のなかにあるいろんなことを修行として捉えていただきたい。例えば人が集まれば、そのなかのコミュニケーションで、自分と意見が合わない人や、嫌いな人がでてくるでしょう。そのなかでどう自分が振る舞うのかは課題ですし、それを解決するのは学び(=修行)です。お寺で行われるイベントに参加することで、いろんなことを学び、解決の仕方をみんなで考えられたらいいですね。お寺は生きていく上で必要なことを学ぶ場でありたいです。そしてこういう場であるとお寺が認知されるようになれば、現在のお寺の収入は葬儀や法事などでいただくお布施ですが、それ以外のイベント活動でもお布施をいただけるのではないでしょうか。

編集部)
お寺のさまざまなイベントに参加いただくことで、いろんな人とコミュニケーションができ、お寺や仏教、参加者同士のご縁が結ばれ、広がっていく。そしてそこでは日常生活や生きていく上で必要なコミュニケーション力や日本の文化などを学べる(=修行できる)ということですね。外部の主催団体によるイベントをお寺で開催するときも、お寺としてのこうした立ち位置がぶれないということも大切だということもわかりました。今後もさまざまなご縁が結ばれるお寺の活動が展開されることを期待します。本日はありがとうございました。

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