第13章
●よく耐え忍び法を弘める!
勧持品
【かんじほん】
「私の滅後に法華経を弘めていく者はいないか、誓いを立てよ!」という第11章見宝塔品(けんほうとうほん)における三度の要請(「三箇の勅宣(さんかのちょくせん)」)、第12章提婆達多品(だいばだったほん)における悪人提婆達多と八歳の龍女の成仏という法華経のすばらしさ・功徳の大きさに驚いて、お釈迦さまの弟子たちが誓いを立てます。
ただ、これまで重ねて強調されてきたように、滅後に法華経を弘めることは、非常に大きな困難が伴うため、誰もがそう易々とその任を果たすことができるものではありません。
そこで、お釈迦さまの弟子たちがそれぞれの立場においてお釈迦さまの要請に応え、法華経を弘めていく誓いを立てる、これがこの第13章勧持品となります。
ここでは、お釈迦さま滅後に法華経を弘める法華経の行者が受ける具体的迫害の様相がくわしく説かれていきます*1。
それぞれの誓い
まず声をあげたのが2万の菩薩たち。お釈迦さまの滅後、どんな困難も耐え忍び、身命(しんみょう)を惜しまず法華経を弘めていきます、と誓いの言葉を述べます。
さらに、500人の弟子たち(第8章五百弟子受記品(ごひゃくでしじゅきほん)で授記(じゅき)された弟子たち)、8000人の弟子たち(第9章授学無学人記品(じゅがくむがくにんきほん)で授記された弟子たち)、そしてこの章で授記されたお釈迦さまの叔母摩訶波闍波提(まかはじゃはだい)・羅睺羅(らごら)の母でありかつての妻である耶輸陀羅(やしゅだら)をはじめとする6000人の弟子たちが続きます。いずれもこの法華経においてはじめて仏となる道が開かれた仏弟子たちです。
ただ、菩薩たちは「此(こ)の土」である「娑婆世界(しゃばせかい)」において法華経を弘めることを誓ったのに対して、その後に続いた仏弟子たちの誓いは、みな「他の国土」における弘経(ぐきょう:法華経を弘めること)でありました。
その理由は、この娑婆世界において法華経を弘めていくことが極めて困難であり、自分たちの力では及ばないから。それだけお釈迦さまの滅後、特に末法という時代において、この娑婆世界で法華経を弘めるためには、強い覚悟とそれ相応の力がなければ叶わないことが示されています。
そこで次にお釈迦さまは、80万億那由佗(なゆた)という無数の菩薩たちに目配せをされ、滅後における弘経の覚悟と決意を促されました。
これに奮起して立ち上がった菩薩たちは、お釈迦さまの御こころを継ぎ、あらゆる世界で法華経を弘めようと、力強く宣言します。
数々の迫害~三類の強敵(さんるいのごうてき)~
この菩薩たちの誓いの中で、滅後の弘経に伴う具体的大難がくわしく予言されています*2。
お釈迦さまの滅後、特に末法の時代は、恐怖や怨み・嫉みの多い、乱れ濁った悪しき世となり、このような時代に生きる人々の心も同様に濁り、慢心、不実な心、こびへつらう心が盛んにわき起こってきます。悪しき心に支配され、そこには、法華経の教えを疑わず、そのまますなおに喜びをもって受け入れるという、法華経において最も重視されてきた“すなおに敬い信じる心”が、全く失われてしまいます。
このような時代に、このような人々に対して法華経を弘めるならば、数々の迫害をこうむることは必至であります。
悪口をいわれ、罵(ののし)られ、軽蔑され、非難され…。また、刀や杖で襲いかかられたり、お寺や修行している場所から追い出されたり、たびたび追放され流されたり…。さらには、国王・大臣等の国の要職者や多くの僧侶に対して讒言(ざんげん)をなし、様々な政治的手段を使って苦しめられたりと、数々の迫害の様相が示されています。
このような迫害を加える者は、①俗人・在家の人から、②出家した僧侶、さらには③世間から生き仏のように崇められている高僧に至るまで、みな、まだ最もすぐれた真実の教え〈法華経の教え〉にも出会わず、真の悟りも得ていないのにそれを得たと思い込み、慢心を抱いている「増上慢(ぞうじょうまん)」で、法華経を弘める法華経の行者にとっては、まさに“強敵”となる存在です。
「濁劫悪世(じょっこうあくせ)の中には 多く諸(もろもろ)の恐怖あらん 悪鬼(あっき)その身に入って 我を罵詈毀辱(めりきにく)せん 我等仏を敬信(きょうしん)して まさに忍辱(にんにく)の鎧(よろい)を著(き)るべし この経を説かんがための故に この諸の難事を忍ばん 我(われ)身命を愛せず 但(ただ)無上道を惜しむ」
お釈迦さまの滅後、末法において法華経を弘める者に必ず出現する「三類の強敵」。この「三類の強敵」には、法華経の行者の精気も命も食らう「悪鬼」がその身体に入っており、数々の危害を加え、邪魔をなしてきます。
しかし、いかなる迫害・邪魔に対しても、常にお釈迦さまを敬い信じ、心を動かされることなく、よく耐え忍ぶ力「忍辱の鎧」を身につけなければなりません。
何よりも尊いのは、すべての者を救い仏となす法華経の教えであります。この教えを弘めるために自らの命も顧みることなくすべてを捧げ、不惜身命の覚悟と決意をもって、滅後弘経の誓いが立てられたのでした。
数々の大難と、法を弘める者に求められる姿勢・心得が説かれた勧持品でありますが、この三類の強敵による大難によく耐え忍ぶ力があるか否か。その力のある者にのみ、お釈迦さまは末法の衆生救済の大任を付属されることとなるのです。
注釈
*1
日蓮聖人は不思議とこの勧持品に説かれた予言の内容をすべて色読(しきどく:自らの身をもってよむ)されました。日蓮聖人の大難四ヶ度・小難数知れずというご生涯を知る上においても、また日蓮聖人のご自覚を考える上においても、非常に大事な章となります。
*2
法華経(私たちの読む鳩摩羅什訳の『妙法蓮華経』)ではここから20行にわたって、様々な難にあってもよく忍び法華経を弘めるという誓いの言葉が述べられており、これを「二十行の偈(にじゅうぎょうのげ)」と呼んでいます。