ゼロから学ぶ日蓮聖人の教え

冬は必ず春となる

妙一尼御前御消息

【みょういちあまごぜんごしょうそく】

今回取り上げる『妙一尼御前御消息』は建治(けんじ)元年〈1275〉、お弟子の妙一尼〈桟敷尼(さじきあま)〉による衣の寄付に対して出された御礼状です。妙一尼は日蓮聖人が佐渡に流されておられた際、聖人のために瀧王丸(たきおうまる)という召使いを派遣したという篤信者であり、また聖人の本弟子である日昭(にっしょう)上人の関係者であったと考えられています。

この『妙一尼御前御消息』では、妙一尼の夫が病気の子ども二人を遺して先立ってしまったことに触れ、『涅槃経(ねはんぎょう)』を引いておられます。

「仏は平等の慈悲なり。一切衆生のためにいのちを惜給べし。」

仏様はあらゆる存在に平等に慈悲の心をそそぎ、すべての生きとし生ける者たちのために命を捧げてくださる。ところが実際には、救いが必要な業深い者について特に心にかけておられる、と『涅槃経』は説いています。これは決して不平等というわけではなく、たとえば七つ子を持つ親が、すべての子どもを平等に愛していても、そのうち病弱な子を特に気にかけるようなものである……と説かれています。

「譬(たと)えば一人にして七子有り、この七子の中に一子病に遇(あ)へり。父母の心平等ならざるにはあらず、しかれども病子においては心すなはちひとえに多きがごとし」

それと同じく妙一尼の亡き夫の霊も、後に遺した病弱な子どもたちと、その母である妙一尼のことを気にかけておられるだろう、と聖人は述べられます。しかしそこで聖人は、次のように励ましの言葉を贈っておられます。

「法華経を信ずる人は冬のごとし、冬は必ず春となる。いまだ昔よりきかず、みず、冬の秋とかへれる事を。いまだきかず、法華経を信ずる人の凡夫となる事を。」

この『法華経』を信じている人は、寒い冬のように苦しく寂しい状況にあるものだ。しかし冬は必ず春となる。冬が秋に戻ってしまった、などということは昔から聞いたことがない。かように冬が秋には戻らないように、『法華経』の信者が凡夫に戻ることは有り得ない。寒い冬がいずれは温かな春になるように、今は苦しい思いをしている『法華経』の信者も、いずれは安らかに成仏することだろう……聖人はこのように述べて、妙一尼の心を励まされたのでした。

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